国内外から約190社のスタートアップが集まり、展示や講演、商談を通じて静岡県内企業との共創を目指す、大規模なオープンイノベーションイベントです。会場にはAI、製造・IoT、建設DX、IT・SaaS、環境・農業、ヘルスケアなど、幅広い分野の企業が出展していました。
業種別のゾーニングが分かりにくかった
会場マップでは出展企業が業種ごとに色分けされていました。しかし、同じ分野の企業が一つのエリアに明確に集約されていたわけではなく、目的の業種を直感的に探せる構成にはなっていませんでした。
同じ色のブースがある程度まとまっている場所はあるものの、製造・IoT、建設DX、IT・SaaS、AIなどの企業は複数の列や階に分散しています。来場者はブース番号と色、マップの凡例を見比べながら、目的の企業を探す必要がありました。
静岡という地域特性もあり、建設、製造、工業分野の企業やサービスが多く出展していました。この強みを生かし、「建設DX」「製造・ロボティクス」「工場DX」といった特設エリアを設けてもよかったのではないでしょうか。
関連企業と同じ課題を持つ来場者が一か所に集まれば、製品やサービスを比較しやすくなり、出展企業同士の交流、新しい商談や連携も生まれやすくなります。
企業の力を高めるAI活用・導入支援が不足していた
今回のイベントでは、AIに関連するブースが数多く見られました。ただし、個別のAI技術やサービスを紹介する展示が中心で、「企業がAIをどのように導入し、組織や事業の力につなげるか」という視点は、やや薄かったように感じます。
AIに関心を持っていても、自社のどの業務に使えるのか分からない企業は多いでしょう。導入に必要なデータや社内体制、予算、セキュリティが分からず、最初の一歩を踏み出せないケースもあります。
「企業AI活用・導入支援ゾーン」という提案
次回は、AIコンサルティング、システム導入支援、人材育成、業務改善、データ活用などを扱う企業を集約した特設エリアがあってもよいと思います。単に製品を紹介するのではなく、来場企業が自社の課題を持ち込み、「どの業務に使えるのか」「導入には何が必要か」「どの程度の効果を期待できるか」まで相談できる場です。
製造、建設、農業、観光といった県内の主要産業における具体的な活用事例も重要です。成果が見えれば、来場者はAIを抽象的な技術ではなく、自社の経営課題を解決する現実的な手段として捉えやすくなります。
AIは「導入」から「運用・改善」の段階へ
さらに重要だと感じたのが、すでにAIを導入している企業への支援です。生成AIをはじめとするツールが急速に普及する一方、その運用が部署や担当者に任され、全社的なルールや評価方法が整っていないケースも少なくありません。
- 現在の使い方は適切なのか
- 情報漏えいや著作権などのリスクに対応できているか
- 一部の社員だけでなく、組織全体へ展開するにはどうすればよいか
- AIによって、本当に生産性や利益が向上しているか
このような、導入後に生まれる課題を相談できる企業や専門家が、今後ますます必要になります。
AI活用状況を診断する相談ブース
企業が現在使っているAIツールや運用方法、困っている業務を専門家に伝え、その場で改善の方向性について助言を受けられる仕組みです。支援はツールの選定や初期導入だけでは不十分です。業務フローの再設計、社内ガイドライン、セキュリティ、社員教育、データ整備、費用対効果の検証まで、継続的に伴走する必要があります。
「AIを導入すること」ではなく、「導入したAIを安全かつ継続的に活用し、成果につなげること」。ここには今後、大きな需要が生まれるはずです。
次回は「業界」と「課題」で企業が出会えるイベントに
TECH BEAT Shizuokaは、多様なスタートアップと静岡県内企業が一堂に会する、非常に可能性のあるイベントです。だからこそ、出展企業の数や分野の広さだけでなく、来場者が自社の課題に合った企業と出会いやすい会場設計が重要になります。
例えば、次のような構成が考えられます。
こうしたテーマを明確に打ち出せば、来場者は「自社のための展示がある」と理解しやすくなります。出展企業にとっても、課題意識の高い来場者と出会えるため、具体的な商談や導入につながる可能性が高まるでしょう。
個人的に楽しめた二つの発見
課題や改善案を中心に書いてきましたが、もちろん会場そのものは十分に楽しめました。特に印象に残ったのは、Unitreeの犬型ロボットです。会場で実際に動く姿には、技術展示としての面白さだけでなく、思わず「かわいい」と感じさせる親しみやすさがありました。高度なロボティクスを身近に感じられる、展示会ならではの体験でした。
もう一つは、ソフトバンクが「AIデータセンター GPUクラウド」を2026年10月から提供予定だと知ったことです。国内の大手GPUクラウドといえば、個人的にはさくらインターネットの「高火力」という印象が強かったため、ソフトバンクの本格参入は新鮮な発見でした。国内でAI計算基盤の選択肢が広がる動きとして、今後も注目したいと思います。
参考:ソフトバンク「『AIデータセンター GPUクラウド』を2026年10月に提供開始」(2026年5月25日)
AIを見せるイベントから、AIを企業の力に変えるイベントへ
業種別の特設エリアと、AIの導入前・導入後の双方に対応する相談ゾーンがあれば、来場者と出展企業の出会いはさらに実践的なものになります。TECH BEAT Shizuokaが、静岡の産業と企業の成長をより深く支える場へ発展していくことを期待したいと思います。